農林漁業体験民宿の手続きのプロセスを公開します
2022年12月をオープン予定に準備を進めている食堂&民宿プロジェクト。
9月からはここを担ってもらう店長にも飯高町に移住してもらい、いよいよ色々な準備が具体的に始まります。飲食店の営業許可は今まで何度も申請したことがあったのですが、旅館業法という分野は今回が初めて。下水道も通っていない中山間地域での手続きは思ったよりも複雑で、大変だったのでせっかくなので何をやっているのかを共有できたらいいなと思い、この記事を書いています。中山間地域で農泊を検討中の方にも参考になると思います。
まず、Airbnbなどの民泊(住宅宿泊事業法)について
泊まるお客さんにしたら関係ないものですが、民泊と民宿は全く許可が異なります。よくAirbnbなどでマンションを活用しているものは、住宅宿泊事業法(いわゆる民泊新法)という法律で管理されており、年間提供日数の上限は180日泊という決まりがあるのが大きな特徴。違法な民泊をなくし、一定のルールに基づいた健全な民泊サービスを広げるため、住宅を宿泊に活用するために作られた比較的新しい法律です。
旅館業法上での「民宿」について
私たちが取得を目指している「民宿」という許可は旅館業法で定められたもので、設備や運営方法なども詳しく定めて、年間を通じて営業ができる許可です。ただこの許可を取得するにはざまざまな法律をクリアしなければならず、時間とコストがかかります。私たちの施設は急に大勢の方が訪れるような拠点になることは考えにくく、食堂や宿泊を通じてコミュニティーを醸成していきたいという思いがあることから、今回は旅館業法の規制緩和を活用した「農林漁業体験民宿」という中山間地域で比較的認可が下りやすい許可の申請を行っています。とはいえ、手続きには時間がかかります。余裕を持って1年くらいかけて手続きを行うことのが安全だと思いますが、私たちは少し急いで3ヶ月程度で全ての認可を取得できるように動いています。
許可や申請について下記にまとめました。
3. 建築基準法上の建物の取り扱いについて
建物には用途というものがあり、通常住宅はそのまま旅館にすることはできず、基準に沿った設備を備えた上で用途変更を行わないと旅館業の許可は申請できません。ただ、中山間地域で都市計画外の建物は確認申請が必要なく、用途変更に必要な確認申請がそもそも存在しない場合が多く、検査済証の発行も困難なため古い建物を旅館として活用する場合には特別な手続きを行う必要があると思われます。
●客室の延べ床面積が33㎡未満であることがまず大前提
農山漁村余暇法における規制緩和型の「農林漁業体験民宿」では、客室延床面積が33㎡未満でも旅館業の許可が申請できるため、この広さを基準に客室を設計しなければいけません。
●旅館用途部分が200㎡未満だと、建築基準法上での用途変更は不要
建築基準法では旅館用途部分が200㎡未満だと用途変更が必要ないため、確認申請などの手続きは不要になります。そのため、古民家を活用する場合は、旅館で使用する面積を200㎡未満にして、客室を33㎡未満にすることで、建築基準法をクリアすることができます。それを踏まえて、旅館業の許可申請を行う場合に下記のような書類を作成して一緒に添付します。
※事前に管轄事務所に確認を行った上で書類を作成する必要があります。
4. 浄化槽の人槽算定について
通常、下水道が通っていない場所で旅館などを行う場合には浄化槽を設置する必要があります。これは水質汚濁防止法にも関連していて、旅館を営業する場合にはどんな排水経路で水を浄化するのかを提出する必要があり、その場合において浄化槽を入れることは必須条件になります。
浄化槽の人槽は「建築物の用途別によるし尿浄化槽の処理対象人員算定基準(JIS A3302-2000)」というものがあり、その基準に則り浄化槽を設置する必要があります。
中山間地域で浄化槽を入れる場合に少し混乱することがあるのですが、農山漁村余暇法における規制緩和型の旅館で使用する建物は住宅で用途変更が必要なく一般住宅としてみなされるので、住宅の算定基準の基づいて浄化槽を設置できます。行政の担当の方でもこの部分を理解していないことがあり、今回はこちらから設置の基準について説明をさせてもらいました。担当の方が全て内容を網羅しているわけではないので、申請側でもきちんと内容を把握した上でやりとりをする必要があるなぁと実感しました。
私たちが住んでいる場所では市が浄化槽を設置して管理してくれる仕組みがあるので、その仕組みに則り設置の申請を行いました。設置するには自治会長の立ち会いのもと、隣に住まれている方との協議を行い、協議報告書も添付して浄化槽の設置申請書を提出しました。
5. 水質汚濁防止法について「特定施設の届出」が必要
農山漁村余暇法における規制緩和型の旅館業を取得する場合、建築基準法において建物は住宅として扱われて、その基準に基づいて浄化槽を設置しますが、水質汚濁防止法においては「特定施設」に該当するため、特定施設の届出書が必要になります。汚水の浄化に関して、浄化槽の仕様書を読みながら記載していくのがとても難しかったのですが、分かってくるとだんだんと楽しくなってきました。
特定施設の届出の具体例は色々と調べてもなかなか載っていなかったので参考に細かい資料をつけておこうと思います。この資料と合わせて浄化槽の仕様書なども一緒に添付して提出しました。
6. 消防法については、民宿などに供される面積が50㎡を越えるかどうかを確認
消防法においては住宅でも火災報知器の設置が義務付けられていますが、農山漁村余暇法における規制緩和型の旅館業を申請する場合には、民宿に供される面積に応じて
- 一般の家庭用の火災報知器
- 特定小規模施設用自動火災報知設備と非常用誘導灯
このいずれかを設置します。この基準の境目は民宿などに供される面積が50㎡を越えるかどうかが基準になります。特定小規模施設用自動火災報知設備は自分で取り付けることが可能ですが、非常用誘導等は電気工事士の資格を有した業者さんにお願いする必要があります。いずれも工事を行う前に消防の管轄事務所に着工届出書を提出する必要があります。どのような設備をどこに付けるかなど細かい添付資料が必要になります。
※着工届と合わせて周辺地域の情報や設置平面図や、用途面積の計算書など細かい資料が必要になります。
7. 食事を出す場合は食品衛生法の営業許可を取得
保健所に提出する食品衛生法上の営業許可についてはたくさんの資料がインターネットに上がっているのでここでは割愛しますが、お客さんが自分で台所で料理をしたり、一緒に郷土料理などを作って食べるなど体験に関わる食事でしたら営業許可は必要ありません。
厨房設備は投資金額も大きいので食事の提供方法については本当に必要になるのかを慎重に検討するといいと思います。私たちの施設は将来的にも必要だと考えて、食品衛生法上の営業許可の申請を行っています。
民泊食堂を立ち上げることは、思ったよりも大変で驚いた
古民家を買ってから色々な手続きを行い、なんとか12月オープンに漕ぎつけようと頑張っています。
何も法律のことも知らずに始めてしまったことは少し反省していて、たまたま建築基準法とか水質汚濁防止法とか色々な法律に適合していたから良かったものの、建物や場所によっては営業許可が下りないことも想定されます。特に旅館業法は基準も厳しくて今回非常に勉強になりました。
普段、地域おこし協力隊として空き家の利活用に関わっている立場としても、もう少しみんなに知識や経験を共有していき、田舎でチャレンジしてみたい人たちにアドバイスしていけたらいいなと感じています。
デザイン事務所としては10年継続していても、民泊食堂としては初心者。慎重にやりつつも大胆なチャレンジもしていけるように、9月からはスピードアップして色々と取り組んでいきたいと思います。
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